∇ で QE

 前々回の例では,解集合の境界 {-3,1} は,直線と放物線の共通部分の y 軸への正射影 {-3,0,1} に含まれていましたが,例えば

∃x ( x≦a ∧ x^2-4x+a≦0 )

はどうでしょう?
 QE は,直線 y=a と集合 x≦y ∧ x^2-4x+y≦0 との交わりが空でない(つまり,点を共有する)条件として

0≦a≦4

ですが,解集合の境界に現れた 4 は,y=x,x^2-4x+y=0 の共有点の y 軸への正射影 {0,3} には現れません.また

∀x ( x^2+a^2+b^2>1 )

では,直線 y=a,z=b が集合 x^2+y^2+z^2>1 に含まれる条件として

a^2+b^2>1

QE できますが,もとになる図形は 1 つしかありません.
 これらの解集合の境界に含まれる a=4 や a^2+b^2=1 を x^2-4x+y=0 や x^2+y^2+z^2=1 から得るにはどうすればよいでしょう.
 前者は 1 変数なので y を従属変数とする関数の極値と捉えることもできますが,後者のような多変数にも通用する捉え方としては

微分実数値関数 f の定める曲面 f=0 上の点のうち,その点での接平面が,正射影を含む空間に垂直となるもの全体の正射影

があり,これは,束縛変数が x のとき,接平面の法線ベクトルの x 成分が偏導関数 f_{x} であることにより

f=0,f_{x}=0 の共通部分の正射影

に含まれます.
 例えば,(x^2-4x+y)_{x}=2x-4=0 つまり x=2 を満たす x^2-4x+y=0 上の点の y 軸への正射影は y=4,また,(x^2+y^2+z^2-1)_{x}=2x=0 つまり x=0 を満たす x^2+y^2+z^2-1=0 上の点の yz 平面への正射影は y^2+z^2=1 です.
 ただし,f_{x}=0 を満たす f=0 上の点には,法線ベクトル自体がゼロベクトルとなるもの,いわゆる特異点があるかも知れず,その点に対して上記のような接平面が存在するとは限りません.しかし,そのような特異点の正射影が解集合の境界に含まれる可能性もあります.例えば,x^2-y^3=0 の法線ベクトル (2x,-3y^2) は,原点において消失し,その点では y 軸に垂直な接線は引けませんが,x^2-y^3<0 の y 軸への正射影は y>0 ですから,f_{x}=0 が大き過ぎるわけではありません.
 また,f が x 以外の変数しか含まない場合,f=0 は正射影が含まれる空間に垂直な柱面ですから,f=0 自体が解集合の境界に含まれますが,これは次回扱うことにします.
 さて,f が多項式関数なら,曲面どうしの共通部分の正射影は,終結式の零点集合に含まれるという前回の性質が利用できるので,例えば,x^2-4x+y,x-2 により

\|\array{1&-4&y\\1&-2&0\\0&1&-2}\|=4-y=0

x^2+y^2+y^2-1,x により

\|\array{1&0&y^2+z^2-1\\1&0&0\\0&1&0}\|=y^2+z^2-1=0

のように

 (特異点,および,接平面が正射影を含む空間に垂直な接点の正射影)
⊆(f,f_{x}の終結式の零点集合)

が成り立ちます.
 なお,f=0 が重根をもつための条件は,f=0,f_{x}=0 が共通根をもつことなので,f,f_{x} の終結式は,f の判別式(根の差積の平方)の 0 でない定数倍になりますので,この形の終結式の条件を判別式の条件と呼びます.例えば,x^2+a x+b に対する判別式の条件は,x^2+a x+b,2x+a により

\|\array{1&a&b\\2&a&0\\0&2&a}\|=a^2-4b=0

です.