終結式で QE

 前回の QE では,直線と放物線との共有点の y 軸への正射影を求めるため,実際に連立方程式を解きましたが,例えば

x^2+x y+y^2=1,\,x^2+x+2 y^2-y=1

のように次数が上がると,その実行は難しくなります.また

xy+yz+zx=1,\,x^2+y^2+z^2=1

のように変数の種類が増すと,n 次元空間の曲面どうしの共通部分は曲線または点(多項式で表された,いわゆる代数曲面どうしが,ある開集合上で一致するなら全空間で一致するので,共通部分の正射影が内点をもつような式は予め整理できます)であり,その正射影も曲線((n-1)次元空間の曲面)なので,一般には共通部分の正射影を表す式が目標となりそうですが,我々は解集合の境界を「含む集合」として正射影を用いるのですから,正射影そのものでなくても,例えば

共通部分の正射影を「含む集合」を表す式

でもよいわけです.勿論空間全体などというようなものでは困りますが,手頃なものとして,終結式の零点集合があるというのが今回のお話です.
 まず定義です.m 次多項式 f,n 次多項式 g の終結式とは,下記のような

f の係数を 1 列ずつずらしながら n 行,g の係数を 1 列ずつずらしながら m 行並べ,他の成分を 0 で埋めた (n+m) 次行列(シルベスター行列)の行列式

のことであり,任意の 1 根についての多項式としての次数と因数定理により,終結式は

f=0 の根 a,g=0 の根 b の全ての組み合わせについての a-b の積の 0 でない定数倍

であることが判りますので,共通根の存在条件は,終結式が 0 となることです.
 従って,y∈R^n,x∈R,f,g を n+1 変数の多項式とするとき

 y∈(f=0,g=0 の共通部分のy空間への正射影)
⇔∃x( f(x,y)=0 ∧ g(x,y)=0 )
⇒(xについての多項式としてのf,gの終結式)=0 (1)

となるので,例えば

x-y=0,x^2-2x+y=0 の共通部分の y 軸への正射影

\|\array{1&-y&0\\0&1&-y\\1&-2&y}\|=y-y^2=0

の表す部分に含まれ,同じく

x^2+x y+y^2=1,x^2+x+2 y^2-y=1 の共通部分の y 軸への正射影

\|\array{1&y&y^2-1&0\\0&1&y&y^2-1\\1&1&2 y^2-y-1&0\\0&1&1&2 y^2-y-1}\|=3 y^4-6 y^3+2 y^2+2 y-1=0

の表す部分に含まれます.
 ただし,終結式が 0 であっても実数の共通根があるとは限らない(例えば,2 x^2 - y, x^2 - y - 1終結式は (y+2)^2 ですが,y=-2 としても 2 x^2 + 2=0, x^2 +1=0 の共通根は虚数のみです)ので,実数の範囲では,(1)は⇔とはならず

(共通部分の正射影)⊆(終結式の零点集合)

としか言えないのです.
 一方,この必要条件と言う位置付けは

形式上の次数による処理が可能

という利点があります.例えば,ax^2+bx+c=0,\,px+q=0 に共通根 r があるならば,それらの本当の次数によらず,つまり,a,\,p やそれらに続く係数が 0 であろうとなかろうと
\(\array{a&b&c\\p&q&0\\0&p&q}\)\(\array{r^2\\r\\1}\)=\(\array{0\\0\\0}\),\;\(\array{r^2\\r\\1}\)\ne\(\array{0\\0\\0}\)
が成り立つので,やはり終結式は 0 となります.従って

xy+yz+zx=1,x^2+y^2+z^2=1 の共通部分の yz 平面への正射影

\|\array{y+z&yz-1&0\\0&y+z&yz-1\\1&0&y^2+z^2-1}\|=y^4+2 z y^3+\left(3 z^2-1\right)\,y^2+\left(2 z^3-4 z\right)\,y+z^4-z^2+1=0

の表す部分に含まれます.