数理論理4:等号

今回は
・等号の公理

・理論と構造の濃度との関係
について述べます.

以下,2項述語記号=を等号と呼び,これを元にもつ言語を固定,t1,t2がその項ならば
 =(t1,t2)をt1=t2
 ¬(=(t1,t2))をt1≠t2
とそれぞれ略記します.

まず,等号の公理を導入します.

(定義4-1)適当な変数記号xによって
  ∀x(x=x)
或いは,t,t’がAのxに代入可能である(つまり,新たな束縛が生じない)適当な項t,t’,変数記号x,論理式Aによって
  t=t’→(A [ t / x ] A [ t' / x ] )の全称閉包
と表せる論理式を等号の公理と呼びます.

ここで,A[t/x]A[t'/x] はA内のxの全ての自由出現をぞれぞれt,t’に置き換えたものです.

また,次のような流儀もあります.

(定義4-2)適当な変数記号x,y,zによって
  ∀x(x=x)
  ∀x∀y(x=y→y=x)
  ∀x∀y∀z(x=y→(y=z→x=z))
或いは,適当なn(>0)項関数記号f,適当な項t1,...,tn,t1’,...,tn’によって
  t1=t1’∧...∧tn=tn’→f(t1,...,tn)=f(t1’,...,tn’)の全称閉包
或いは,適当なn(>0)項述語記号p,適当な項t1,...,tn,t1’,...,tn’によって
  t1=t1’∧...∧tn=tn’→(p(t1,...,tn)→p(t1’,...,tn’))の全称閉包
と表せる論理式を等号の公理と呼びます.

このとき

・ (定義4-2)の各公理は(定義4-1)の公理全体の集合から証明可能
・ (定義4-1)の各公理は(定義4-2)の公理全体の集合から証明可能

であり,(定義2-1)に

 とくに
 I(=)はD上の相等関係,つまり,任意の(a,b)∈D^2に対して,a=b(この=はD上の等号)ならば1,そうでないならば0となる写像

を追加すると

・ (定義4-1),(定義4-2)の各公理は valid

です.

以下,(定義2-1)に上記を,(定義3-1)に

Kが(定義4-1)の等号の公理ならば
0.{}\longrightarrow{K}

をそれぞれ追加し,理論と構造の濃度との関係を見て行きます.

まず
  ∀x∀y(x=y) ⇔ ∃x∀y(x=y)
であり,2つの理論{∀x∀y(x=y)},{∃x∀y(x=y)}はどちらも濃度が1の任意の構造のみをモデルにもちます(domain が空である構造を許す流儀では,∀から始まる任意の論理式はその構造において valid なので,前者は濃度が2より小の任意の構造のみをモデルにもちます).

同様に,2つの理論
  {∃x1∃x2(x1≠x2)∧∀x1∀x2∀x3(x1=x2∨x1=x3∨x2=x3))}
  {∃x1∃x2(x1≠x2∧∀y(x1=y∨x2=y))}
はどちらも濃度が2の任意の構造のみをモデルにもちます.

そして,2以上の任意の整数nに対して,φnを
  ∀x1...∀xn(1≦i<j≦nを満たす各整数の対(i,j)に対するxi=xjを∨で結んだもの)
とおくと,それぞれ
  {φn}は濃度がnより小
  {¬φn} は濃度がn以上
  {¬φn,φ(n+1)} は濃度がn
の任意の構造のみをモデルにもちます.

このように任意の正の整数nに対して,理論Tnが存在して
  任意の構造Sに対して,Sの濃度がnとS|=Tnとは等価
ですが
  任意の構造Sに対して,Sの濃度が有限とS|=Tとは等価
となる理論Tは存在しません(そのようなTがあるとT’=T∪{¬φj:j≧2}の任意の有限部分集合がモデルをもつのでコンパクト性定理( https://en.wikipedia.org/wiki/Compactness_theorem )によりT’もモデルをもちますが、その濃度は有限かつ無限となり不合理です).

これと双対的に,無限濃度については,上記のφにより
  任意の構造Sに対して,Sの濃度が無限とS|={¬φj:j≧2}とは等価
ですが,任意の無限濃度mに対して,濃度mの任意の構造のみをモデルにもつ理論は存在しません(無限濃度の任意の構造M,Mをモデルにもつ任意の理論T,言語の濃度以上の任意の濃度kに対して,Tは濃度kの(Mと初等的同値な)モデルをもつことが,レーベンハイム-スコーレムの定理( https://en.wikipedia.org/wiki/L%C3%B6wenheim%E2%80%93Skolem_theorem )として知られています).